中日新聞(東京新聞)さんに掲載されました。(中)

<あらゆる人を戦力に>(中) 「変わりたい…」支えた会社

http://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2018040202000002.html

 

障害、介護、子育て、闘病など、働く上でさまざまな制約がある「わけあり人材」。前回(三月二十六日)は、彼らを戦力として生かす宇都宮市の中古タイヤ販売会社「アップライジング」社長の斎藤幸一さん(42)に考えを聞いた。今回は、同社で働く「わけあり人材」が、仕事にどう前向きになったのかに迫った。「どうせ自分は…」と思ってしまったとき、彼らはどう乗り越えてきたのだろうか。

 「ここを辞めたいと思ったこと? そりゃ何度もありますよ」。タイヤを組み込む作業の手を休めて、大金則行さん(31)は答えた。同社に勤めて二年近く。扱い慣れたバールの先を真剣に見つめる目からは、「採用面接にジャージー姿で来た」(斎藤さん)とは思えない。

 大金さんは、父親から虐待を受け、小学三年生の時、警察に保護されたという。養護施設で育った後、十七歳で施設を出た。いくつかの職を転々とした末、やがて仕事を続けられなくなり、生活保護を受けてアパートにこもった。

 そんな時、若者支援のNPOから紹介されたのが同社だった。二〇一六年五月、斎藤さんの妻で専務の奈津美さん(39)が面接官だった。奈津美さんは質問を重ねるのではなく、これまでどう生きてきたかを大金さんに語らせた。マスク越しに訥々(とつとつ)と話す言葉に耳を傾けた。今まで、いくつもの仕事をなぜ辞めたかも。「だらしなく、その日暮らしだったことを話しました」。大金さんは言う。

 聞き終えた奈津美さんが言った。「本気で人生を変えたいと思うなら、うちは全力で面倒を見る。でも、社会や世の中のせいにするなら、他を当たってください」。さらに重ねた。「面倒を見ると言っても、会社がおんぶに抱っこで何かしてくれると思うのは間違い。変わるも変わらないも自分次第。大金さんは変わりたいの? それとも変わりたくないの?」。ややあってボソボソとした声が答えた。「変わりたいです」

 「ここまで真剣に自分に向き合ってくれたのは初めてでした」。当時を振り返る大金さん。「それでも逃げる気持ちが出ちゃうんですよね」と苦笑する。

 まずはアルバイトとして採用され、先輩スタッフから指導を受ける。あらかじめスタッフには、大金さんが傷つきやすい心の持ち主であることを伝え、ばかにされたなどと感じさせない教え方をするよう伝えた。

 それでも誤解は避けられない。三カ月を過ぎたころ。大金さんは数日、無断欠勤した。電話にも出ない。奈津美さんがアパートを訪ねると本人がいた。「まだバイトなのに、命令口調であれやれ、これやれと言われた。もうやっていられない」。憤る大金さんに、奈津美さんは言った。「そうやって、また逃げるの?」

 奈津美さんは、先輩は決して見下して言ったのではないと諭しながら、こうアドバイスした。「でも、そう思ってしまうのだから、仕方がないことも分かる。だから、そういう時は私の所に来て全部話して」

 社長と専務はこう決めていた。「彼を成長させない限り、絶対にここを辞めさせない」と。「でなければ、また同じことを繰り返すから」という理由で。

 「それでも、ここを辞める人がいるのも現実」。斎藤さんは、ため息交じりに語り、こう続けた。「だけど、私はやりたいことを精いっぱいやる。真剣に人と向き合いたいから」

 斎藤さん夫婦は、罪を犯した「わけあり人材」にも向き合う。十六日の(下)で紹介する。

 (三浦耕喜)